『特例認定』って聞いたことありますか?ビルメンテナンスの業務をしていると、(勤務する建物の用途にもよりますが)結構頻繁にこの言葉に出会います。同僚に聞かれることがあったのですが、自分もあいまいに理解・記憶してる部分があったので、知識の整理をしました。
特例認定とは
非常にざっくりと書きましたが、こういうことです。いろいろ専門用語が出てきましたが、大枠ではこういうお話です。「特例認定の期限って今年じゃなかったっけ?」という使い方の様に現場では話しますが、正しくは防火対象物定期点検報告の特例認定だし、防災対象物定期点検報告の特例認定というわけです。
この、防火対象物定期点検報告や防災対象物定期点検報告と特例認定は切り離して語ることはできないので、まずはこの二つの制度について説明します。
と思いましたが、まずはこの二つの専門用語についてやっつけていきます。
防火対象物とは
ちょっとわかりづらいですよね。簡単に言うと、「いろんな人が利用するから、きちんと防火措置を講じていないといけない施設、物」です。ちなみに、多くの人が利用する施設や特に防火措置を高いレベルで講じておかなければならない施設や物は“特定防火対象物”といって“特定”が頭につきますが、これについて説明すると長くなるのでここでは用語の紹介に留めておきます。
管理権原者とは
管理について権原を有する者を管理権原者(かんりけんげんしゃ)といいます。現場では「かんりけんばらしゃ」と言って、権限という言葉に誤認しないようになっているようです。どこの現場や会社でもだいたいそうみたいですね。権原と権限って漢字が違うから、やっぱり意味も違います。辞書的には
権原
ある法律行為又は事実行為をすることを正当化ならしめる法律上の原因
権限
することのできる行為若しくは処分の能力又は行為若しくは処分の能力の限界若しくは範囲
とあります。消防法の場合の管理権原者は消防法を遵守させる法律上の原因がある者、つまり建築物の運営に関する決裁権限がある者ですね。
(ですから、ビル管理会社の人間がなるものではありません。オーナー会社やPM会社の責任者が選任されるのが通常です)
ちなみに「管理」とは、防火対象物又はその部分における火気の使用又は取扱いその他法令に定める防火についての管理をいいます。つまり、火事を起こさないように、火事が起きた時に防火措置が適切にできるよう取り計らうこと全般っていうことですね。
やっと、二つの専門用語の説明が終わりました。では本題に入ります。
防火対象物定期報告制度、防災対象物定期点検報告制度とは
項目 | 防火対象物定期点検報告制度 | 防災対象物定期点検報告制度 |
概要 | 一定の要件を満たす建築物等の管理権原者に関して、点検資格者による防火管理上必要な業務等についての点検を行わせ、その結果を消防長(消防本部を置かない市町村においては、市町村長)又は消防署長に報告することを義務付ける制度 ※消防用設備等点検報告制度とは異なる制度である為、混同しないように注意が必要 |
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根拠法令 | 消防法第8条の2の2 | 消防法第36条 |
対象防火対象物 | 収容人数が300人以上、300人未満の防火対象物 次の要件に該当するもの 1.特定用途部分が地階又は3階以上に存ずるもの(避難階は除く) 2・階段が2以上設けられているもの (例)小雑居ビル等 収容人数が300人以上の防火対象物 (例) 百貨店、遊技場、映画館、病院、老人福祉施設等 |
※下記別表1を参照 |
点検者 | 防火対象物点検資格者 | 防災対象物点検資格者 |
点検項目 | ・防火管理者を選任しているか ・消火、通報、避難の消防訓練を実施しているか ・避難階段に避難障害となる物が置かれていないか ・防火戸、防火扉の閉鎖障害となる物が置かれていないか ・カーテン等の防炎対象物品に防炎性能を有する旨の表示が付けられているか ・消防法令の基準による消防用設備等が設置されているか 等 |
・防災管理者を選任しているか ・避難階段に避難の障害となる物が置かれていないか ・オフィス家具等の転倒、落下、移動防止措置が取られているか ・訓練マニュアルに基づき避難訓練が1年に1回以上実施されているか ・非常食等が常備されているか 等 |
特例認定制度 | あり | あり |
特例認定の要件(認定基準) | ・管理を開始してから3年以上経過していること ・過去3年以内に消防法令違反をしたことによる命令を受けていないこと ・過去3年以内において防火管理点検の未実施未報告・基準不適合がないこと ・防火管理者の選任がされていること ・消防計画の作成の届け出がされてること ・消火訓練及び避難訓練を年2回以上実施し、あらかじめ消防機関に通報(届出)していること ・消防用設備等点検報告がされていること 等 |
・管理を開始してから3年以上経過していること ・過去3年以内に消防法令違反をしたことによる命令を受けていないこと ・過去3年以内において防災管理点検の未実施未報告・基準不適合がないこと ・防災管理者の選任がされていること ・防災訓練を年1回以上実施し、あらかじめ消防機関に通報(届出)していること 等 |
特例認定の失効 | ・認定を受けてから3年が経過したとき ※但し、失効前に新たに認定を受けることにより、特例認定を継続することができる ・防火対象物の管理において権原を有する者が変わったとき |
・認定を受けてから3年が経過したとき ※但し、失効前に新たに認定を受けることにより、特例認定を継続することができる ・防災対象物の管理において権原を有する者が変わったとき |
特例認定の取り消し | 消防法令に違反した場合、消防機関から認定を取り消される | 消防法令に違反した場合、消防機関から認定を取り消される |
点検報告周期 | 1年に1回(特例認定期間は3年に1回) | 1年に1回(特例認定期間は3年に1回) |
点検済みの表示 | 消防法に適合していると認められた場合は「防火基準点検済証」が発行され、物件に掲示することができる (特例認定を受けている場合は「防火優良認定証」となる) (防火・防災共に認定を受けている場合は、「防火・防災基準点検済証」又は「防火・防災優良認定証」となる) |
消防法に適合していると認められた場合は「防災基準点検済証」が発行され、物件に掲示することができる (特例認定を受けている場合は「防災優良認定証」となる) (防火・防災共に認定を受けている場合は、「防火・防災基準点検済証」又は「防火・防災優良認定証」となる) |
罰則 | 30万円以下の罰金又は拘留 ・点検結果を報告せず又は虚偽の報告をした場合 ・点検基準に適合しないにもかかわらず「防火基準点検済証」を表示した場合、又はこれと紛らわしい表示をした場合 ・特例認定を受けていないにもかかわらず「防火優良認定証」を表示した場合、又はこれと紛らわしい表示をした場合 5万円以下の過料 ・特例認定を受けた管理権原者が、管理権原の変更届を怠った場合 ※当記事作成時にサイト作成者が調べた情報です。運用時には根拠法令をご確認ください。 |
別表1:防災対象物定期点検報告制度の対象となる建築物等
基準1:地下街以外の場合
用途基準 | 劇場等、風俗営業店舗棟、飲食店等、百貨店等、ホテル等、病院・社会福祉施設等、学校等、図書館・博物館等、公衆浴場等、車両の停車場等、神社・寺院等、工場等、駐車場等、その他の事業場、文化財 |
+ | |
規模基準 | ①階数が11以上の防火対象物:述べ面積10,000㎡以上 ②階数が5以上10以下の防火対象物:延べ面積20,000㎡以上 ③階数が4以下の防火対象物:延べ面積50,000㎡以上 |
※上記用途の建築物等に対して、規模基準が適用され、いずれの基準にも適合する場合に対象となる。
基準2:地下街の場合
用途基準 | 地下街 |
+ | |
規模基準 | 延べ面積1,000㎡以上 |
最後に
いかがでしたでしょうか。わかりやすく記述することを意識しましたが、そうなってなければすみません。この二つの点検報告制度について、最初はすごくとっつきにくい印象でしたが、整理してみればそんなに複雑な制度では無いように思えてきました。
一番注意して欲しいのは、消防用設備等点検報告制度とは異なる制度であるということですね。消防用設備等点検制度とは、あれです。消防設備士さんや消防設備業者さんが、一年に二度消防設備の外観点検(一回)と機器点検(一回)をやっているあれです。小学校の時に「火災報知器の点検をします」とかいう説明があって、業者さんが入ってきてトイレの詰まり除去(ラバーカップ)みたいな柄の長い点検器具を天井に付けていましたね。ああいった消防設備の点検とは違うということです。
この制度は、平成13年9月に起きた新宿歌舞伎町ビルの火災を省みて創設された制度らしいです。何名ものかたが亡くなった事件で、多くの報道がされました。被害者が多くなった原因は本来避難経路であった避難階段へ続く防火戸の周りに多くの業務用の物品が置かれており避難ができなかったことが一因としてあるという報道が当時されました。今から15年ほど前のことですがよく覚えています。そういった痛ましい事件を二度と起こさないように創設されたという経緯があります。
建築設備関係者諸兄は、この制度をしっかり頭に入れ、関わる建築物で適正に点検、報告がなされるように配慮いただきたいと思います。
※今回この記事では、制度の骨組みを理解することを第一に考え、詳細な項目については、やや省略して概略を記述している部分もあります。業務を行う際には根拠条文にあたって確認することを忘れない様にしていただきたいと思います。
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