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防火シャッター・防火扉に関する法改正が実施されるという情報がじわじわと入るようになってきました。まだ、法改正の内容自体が詳細まで決まっていないらしいです。とはいえ、法改正の内容いかんによっては来期の建物管理や修繕工事の予算が変わってきますので、今のうちにわかる範囲で情報を集めてみました。
改正されるのは、建築基準法
防火シャッター・防火扉に関する法改正ということで、消防法の改正かなと思っていたのですが、改正されるのは建築基準法のようですね。
改正内容の骨子
建築基準法に準拠する定期報告制度
現行 | 法改正後 |
特殊建築物 | 特殊建築物 |
昇降機 | 昇降機 |
建築設備 | 建築設備 |
なし | 防火設備 |
法改正により、防火設備に関する定期点検が独立した定期点検として実施されることになりました。防火シャッター・防火扉は今まで特殊建築物の定期報告の中の項目の一つとして、検査・報告されていました。しかし、今度の建築基準法の法改正では、防火設備を一つの定期報告対象として格上げしているのです。
検査・調査資格者名称の変更と新設
現行 | 法改正後 |
特殊建築物等調査資格者 | 建築物調査員(仮称) |
昇降機検査資格者 | 昇降機等検査員(仮称) |
建築設備検査資格者 | 建築設備検査員(仮称) |
なし | 防火設備検査員(仮称) |
現在の特殊建築物、昇降機、建築設備に関する点検資格者の名称が変わるとともに、防火設備に関する点検資格者も新設されます。注意点としては、旧点検資格の保持者は資格者証の書き換えをしなければならないということです。書き換えをしなければ点検資格者として認められません。
なぜこの時期に、建築基準法の法改正がこのような内容で行われるのでしょうか。
それにはこのような背景と経緯があります。
法改正の背景と経緯
きっかけとなったのは、平成25年10月11日に福岡で発生した病院(診療所)での火災だと言われています。死者10人、負傷者5人となった非常に痛ましい事件でした。この病院は是正されない防火設備に関する建築基準法違反が多く残されていました。項目としては
・防火扉は煙感知器連動にすべきであったが、旧式の温度ヒューズの者が設置されたままだった
・増築された吹き抜け部分に本来設置すべき防火設備が設置されておらず防火区画が形成できない状況だった
・無届の増床でできた無窓居室内に、本来設置されているべき排煙設備が設置されていなかった
・非常用照明が廊下に未設置だった
等がありました。
こういった建築基準法違反が多くの犠牲者を招く結果となったと考えられ、今回の法改正となったとされています。
建築基準法法改正のスケジュール
法施行の時期
平成28年6月施行予定とされています。6月の何日だろうと思ってあれこれと調べたのですが、何日と記したデータは見つかりませんでした。
防火設備検査員(仮称)の講習会スケジュール
新設される防火設備点検は、一級建築士、二級建築士、防火設備検査員(仮称)が行うとされる予定です。一級建築士、二級建築士は急増させることはできませんが、防火設備検査員は講習資格なので、講習会を頻繁に開催すればかなりの数を創出させることはできます。
今のところ、年明けから6月の施行までに3回予定されているという情報が入って来ています。各地域で1回ごとに数百人単位の講習会を開き、多くの防火設備検査員を創出すると言われています。
詳細な案内は消防設備士の免状更新講習会で行われています。実は私もその講習会がきっかけで知った口です。同僚が「講習会でこんな案内貰ったよ」と案内書を見せてくれました。その案内書には防火設備検査員の講習案内が記載されていたのですが、結構受講要件が厳しく定められており、限られた人しか受けられないようになっています。私なんかは受講要件に適合しませんので受けれません。
講習には学科講習と実技講習があるようです。
学科講習の受講資格
次の区分のいずれかに該当するもの
学校 | 学科 | 卒業後の実務経験年数 | |
大学 | 正規の建築学、機械工学または電気工学に相当する課程 ・正規の建築学に相当する課程の例 建築科、建築学科、建築工学科、建設科、建設学科など ・正規の機械工学に相当する課程の例 機械科、機械学科、機械工学科、機械システム工学科など ・正規の電気工学に相当する課程の例 電気科、電気学科、電気工学科、電気技術科など |
2年以上 | |
3年制短期大学 (夜間を除く) |
3年以上 | ||
2年制短期大学 又は高等専門学校 |
4年以上 | ||
高等学校 又は中等教育学校 |
7年以上 |
その他
・11年以上の実務経験(防火設備に関するもの)を有する者
・建築行政に関して2年以上の実務経験(防火設備に関するもの)を有する者
・消防吏員として5年以上の実務経験(火災予防業務に関するもの)を有する者
・消防設備点検資格者として5年以上の実務経験(防火設備に関するもの)を有する者
・甲種消防設備士又は乙種消防設備士として5年以上の実務経験(防火設備に関するもの)を有する者
・上記と同等以上の知識及び経験を有する者
以上が受講資格です。概ね結構敷居が高いというか、要件が厳格な印象です。実務経験についてもかっこ書きで(防火設備に関するもの)と記されています。法改正となった病院火災の事故を鑑みて厳格にされているのかもしれません。
学科講習の費用
32,400円(消費税込み、テキスト代含む)
学科講習の開催場所
回によって開催場所が異なるようです
第一回 | 第二回 | 第三回 | |
期間 | H28.1.13~14 | H28.1.26~27 | H28.2.8~9 |
札幌市内 | ○ | ||
仙台市内 | ○ | ||
新潟市内 | ○ | ||
東京都区内 | ○ | ○ | ○ |
名古屋市内 | ○ | ○ | ○ |
大阪市内 | ○ | ○ | ○ |
高松市内 | ○ | ||
広島市内 | ○ | ||
福岡市内 | ○ | ○ | ○ |
那覇市内 | ○ |
学科講習の期間
2日間
その他
講習終了後に終了考査があります。学科試験を全ての時間で受講して、終了考査に合格しなければ実技講習を受講できないようです。
実技講習の受講要件
学科試験の全科目を受講し、終了考査に合格した者
実技講習の費用
27,000円(消費税込)
実技講習の開催場所
札幌、東京、名古屋、大阪、福岡(予定)
実技講習の期間
1日(3時間)
今のところわかっている講習会の情報はこんなところです。一般社団法人 日本建築防災協会の案内では、改正建築基準法の施行前に一定数の方に防火設備検査員になってもらう必要があるので、今回講習会を開催すると記してあります。ということは法施行後の講習会はまた違った内容になるかもしれないですね。
新設される防火設備点検で何を見るの?
・防火シャッター、防火スクリーンの駆動装置の状態確認
・防火シャッター、防火スクリーンの煙、熱感知機との連動閉鎖確認(こちらについては“連動動作”ではなく“連動閉鎖”ですので閉まりきるまでの動きだとされています。)
・防火シャッター、防炎スクリーンに付いている危害防止装置の停止距離、運動エネルギーの測定
・防火扉(防火ドア)の閉じ力、運動エネルギーの測定
これらを点検項目とする予定とされています。病院火災での反省を徹底的に活かそうという姿勢が見て取れますね。
どんな建物が点検対象となるの?
いまのところ、国が指定する建物(用途)の基準は「特に防火上、安全上重要なもの」とされています。
もう少し細かい基準として
・不特定多数の人々が利用する建築物
・高齢者などの就寝の用に供する建築物
・避難弱者が利用する建築物
という方針が出されています。なんだか、消防法上の特定防火対象物や建築基準法上の特殊建築物のくくりと似ていますね。
おそらく、国が対象としてくる建築物も今まで特殊建築物と区分してきた建物区分に近いものがあると思います。
国が指定をすることになると予想される用途
・劇場、映画館、演芸場
・観覧場(屋外観覧場は除く)、公会堂、集会場
・病院、診療所、福祉施設(特別養護老人ホーム等)
・旅館、ホテル
・下宿、共同住宅、寮
・体育館、博物館、美術館、図書館、ボーリング場、スキー場、スケート場、水泳場、スポーツの練習施設
・百貨店、スーパーマーケット、展示場、キャバレー、カフェ、ナイトクラブ、バー、ダンスホール、遊技場、公衆浴場、料理店、飲食店又は物品販売業を営む得店舗
等が予想される用途となります。
これに加えて、地方自治体が対象用途を加算してくることも考えられます。
地方自治体が指定をすることになると予想される用途
その場合は
・オフィス
が対象として加算されることが予想されます。
この法改正がビルメンに与える影響
法改正の内容は、上記で大枠はつかめました。では、この法改正がビルメン現場スタッフにはどう影響するのでしょうか。防火設備定期検査自体は恐らく、シャッターメーカーか、消防設備点検業者に検査を発注するでしょう。検査業務自体による業務増は無いと考えられます。
しかし、物件オーナーは防火設備定期検査をシャッターメーカーか、消防設備点検業者に発注する前に要検査箇所の拾い出しと予算化する為の概算金額の把握を求めてくるかもしれませんので、オーナーと専門業者の間に入った形での現地調査同行や見積もり取得等の業務は発生するかもしれません。
最後に
実は、現時点で国土交通省の補助事業により運営されている「定期報告ポータルサイト」と題されたwebサイト上では
防火設備定期報告については、施行日以降最初の検査の時期については3年以内とすることを検討中とされています。あくまで検討中であり未確定ですが、webサイト上で発表されるということはそれなりの確度のある情報ではないかと考えられます。
正直言って、この情報を目にしたときかなり安心しました。来年度の建物管理予算がどうなるかずっと気になってモヤモヤしていましたので。後は、この検討中が決定されるのを粛々と待ちたいと思います。