消防査察体験記 商業施設 準備編

法律

消防査察とは、物件の運営が消防法に則って適法にされているか、設置されている消防設備が消防法に照らして不備、不適格なところはないか、消防設備点検で「不備指摘事項」として挙げられているところが適正に是正されているか等を消防署の消防吏員が監査・視察するものです。

消防査察については、過去記事
消防査察のチェック項目、ビルメンも準備に奔走します
でチェック項目について触れています。

オフィスビルで3年に一回程度、ホテル・病院・商業施設で2年に1回程度の頻度で査察に訪れているというのを聞いたことがあります。もちろん、地域によって管轄する消防署が違うので、管轄する消防署の方針によって査察回数は異なってきますが、事務所用途のオフィスビルよりも不特定多数が利用するホテル・病院・商業施設等の特定防火対象物の方が査察頻度が高いことが一般的な様です。

特定防火対象物とは・・・商業施設、ホテル、病院といった不特定多数の者が利用する防火対象物又は病院や社会福祉施設、幼稚園など行動や避難を行う上でにハンディキャップがあり、火災の際に、人命に危険を及ぼすと考えられる施設をいう。

通常消防査察は事前通達の上で、施設側と消防側で日程調整の上実施されるのですあが、抜打ちもあります。12月の年末商戦時期等は商業施設は稼ぎ時なので、通常よりも搬入物量を多くして販売に備えます。そういう館内のバックヤードに物量が多い時こそ、避難扉の前に物品が置かれたり、防火シャッター、防火スクリーンの降下ラインに物が置かれたり、避難通路に物が置かれたりして、消防法違反が散見されます。

お店側としては、「物がいっぱいあるから仕方がない」と言いたいところですが、消防法はそれを許しません。こういった人や物で一杯な時ほどえてして火事が発生しやすいものですし、火災が発生したときに上記のような避難障害があった時には被害が甚大なものになります。

ですから、消防吏員も“忙しい時ほど、きちんと消防法を遵守していますか”という意味を込めて抜打ちで来るのだと思います。事前通知してしまうと、施設側は査察時の指摘事項を減らそうと対策をします。対策そのものはいいことなのでが、不良施設になると査察が入るその日だけ直して、査察が終わると元に戻す施設もありますので、火災が発生しやすい・火災が発生したときの被害が大きくなりやすい時のありのままの施設の状態を見るという趣旨で抜き打ちで査察をするのだと思います。

以下では、商業施設に消防査察が入った時の体験談となります。

消防査察体験記

消防査察の事前通知が送られてきた

いつも通り防災センターに送られてきた郵便物を整理していると、管轄の消防署より送られてきた郵便物が混じっていました。ちょっと嫌な予感がしましたが、開封すると消防査察の事前通知が入ってました。すぐさまPM及び商業施設の運営をしている管理会社の事務所にその事前通知を持っていきました。

20人くらいいる管理会社の事務所に入っていき、まず建築・設備担当者に事前通知書を見せると、「マジかよ」とがっくり肩を落としていました。続いて支配人に事前通知書を見せると天を仰ぐように深呼吸をしていました。面倒だなと思ったんでしょうね。その場でちょっと方針の確認みたいな立ち話をしましたが、、断れるものでもないので、施設側でできる事前対策をやって、粛々と査察して頂こうということになりました。。

その場で支配人が消防署に電話して、記載されていた日程で問題ないことを伝えます。ちなみに予定日は今から2週間後程度。準備・対応期間としてはちょうどいい期間のように思えました。

消防査察があるまでに済ませておく対応を協議

残された時間は2週間です。その日の夕礼で防災センターのスタッフに2週間後に消防査察が入ることを伝えました。その物件で5年以上勤める勤務歴の長いスタッフが複数名いたので、前回の消防査察はどんな風に実施されたのかという流れをヒアリングしました。

また、査察前に何をしたのか、消防査察で見られる点はどういう点があるのかという点を入念にヒアリングしました。

その結果
・消防署に提出すべき書類の提出状況
・避難障害
・防火シャッターの降下ライン
・防炎製品の使用
・散水障害
・感知機の未警戒区域
・避難誘導灯の目視の可否
・消火ポンプ室に物を置かない
等の指摘を過去に受けており、この辺りは今回事前に是正をしておくべき箇所だとわかりました。

この辺りのチェック項目については
消防査察のチェック項目、ビルメンも準備に奔走します
で述べています。

共用部の避難通行障害、散水障害、防火シャッターの降下障害等を3日で是正して周り、テナント内部の指導及び是正の1週目を4日間で行い、残りの一週間で是正が間に合っていないテナントのフォローや是正する気のないテナントへの再指導を行うことを決めました。

館内には大小含めて200近いテナントがあります。素直に言うことを聞いてくれるテナント、なかなか言うことを聞いてくれないテナントなど様々です。言うことを聞いてくれないテナントに対しては、PMやオーナーの担当を連れて行って理解を得たいと考えていました。

共用部の是正をした最初の3日間

避難階段については、ビルメンや清掃員が工具や備品を置いていましたので通路幅が狭くなっていました。脚立や高圧洗浄機等ですね。置く場所が無いというのも理由としてあるのですが、置く場所が無いのは皆同じです。他の場所を片づけて何とかスペースを作ってそこに収納しました。

スタッフ用更衣室の上にも段ボールが山のように積まれており、スプリンクラーの散水障害として指摘されることは明白だった為、全て撤去してスプリンクラーの散水箇所から下に45cmの水平ラインの距離内には何も物品が無いようにしました。45cmというのは、前回指導されたスプリンクラーの散水箇所からの垂直距離が45cm以上というのを参考にしたものです。

共用部の防火シャッターの降下ラインの下にも施設の案内表示の拝み看板が置かれていましたので、運営会社に話をして撤去してもらいました。

これで最初の3日間は無難に経過しました。共用部なのでこれはある意味当然です。明日からはテナント内部が対象であり、テナントに是正して貰うことになるので、難航することが予想されました。

テナントに説明、指導して回った次の4日間

大小合わせて200ほどあるテナントを手分けして点検して回りました。そしたら、スプリンクラーの散水障害や避難通路障害が出るわ出るわで非常に対応が大変でした。

最も多かったのが、スプリンクラーの散水障害です。店舗奥のバックヤードでは倉庫を兼ねている為、棚を設置しているテナントが多かったのですが、棚の上にも商品が入った段ボールを積み上げているものですから、天井近くまで積み重なっていました。

また、アパレルテナントでは、バックヤードでハンガーに掛けた商品を水平なポールにかけて保管していたのですが、その上にほこり避けとして木の板を広く敷設していました。

布でできた商品の上に木の板があったのでは、商品が燃えた時にスプリンクラーの水がかからない為もちろん散水障害となります。こんな散水障害もあるのだなと勉強になりました。

いずれもテナントに説明して、今週中に是正してもらうよう伝えました。

次に多かったのが、避難通路の幅員でした。店内のメイン避難導線は通路幅を2メートル以上確保しなければならないのですが、3つの店舗でマネキンやワゴンが置かれていて、必要な幅員が確保できていませんでした。

幸い、マネキンとワゴンはすぐに移動できるものでしたので、いずれのテナントでもその場で是正してもらいました。

一番是正に難航したのは、防火シャッターの降下障害が起きているテナントでした。お店の陳列している大型ワゴンとディスプレイが店舗入り口のシャッターラインにかかっていたのですが、お店的には今この時期の売り上げを伸ばす為にはこの位置にどうしても置きたいという希望があること、なぜもっと前から連絡を貰えなかったのかということでゴネられました。数的には一店舗でしたが、なかなか言うことを聞いてもらえませんでした。

防火シャッターがきちんとしたまで降下しなければ、火災発生時に被害範囲が拡大すること、煙が広がり煙に巻かれる被害者が増えることを説明しその場では是正してもらいましたが、どうも腑に落ちていない状況でした。

その他にも避難誘導灯の視認障害の改善や防炎製品の使用を呼び掛けて回りました。特に防炎製品については“防炎マーク”がついたものを使用しなければならないという制度を知らないテナントスタッフが多くて「この試着室内のマットは買い直さなければならないのですか?」という質問が多数ありました。心苦しいながらも「そうです」と答えざるを得ませんでした。

こういった対応をしているうちに、専有部点検・指導期間とした4日間が経過しました。指導した箇所は全て写真を撮っていたので、次の週は写真撮影箇所を中心に確認して回りました。

消防査察前の最後の7日間

一度指導と改善依頼をしたテナントは二週目確認をしたときはほとんど是正できていました。ただ一店舗を除いては・・・。

あの防火シャッターの降下障害でしぶしぶ目の前で是正したテナントが、ワゴンとディスプレイをまたシャッターラインの上に置いていました。すごく腹が立ちましたが、ここでテナントと揉めるわけにもいかないので、運営会社の担当スタッフを連れて行って説得してもらうようにしました。

幸いそのスタッフも事務所に在席していたので、携帯電話で架電して現地に来てもらいました。事情を詳しく話して、運営会社の立場で防火シャッターの降下障害に関して是正が必要なことを理解してもらいたいと伝えました。担当もわかりましたということで、一緒にそのテナントの店長を訪ねました。

ビルメンスタッフ、運営会社のスタッフ、店長の3人で防火シャッターの降下障害発生箇所の現場を確認し、運営会社のスタッフより店長へ是正が必要である旨を再度伝えてもらいました。そこまではよかったのですが、運営会社のスタッフが話の最後に店長に言った一言が問題でした。こともあろうか「その日だけでいいですから」と言ってしまったのです。

その一言を言ったが故に店長が消防法を遵守する気持ち、店舗内や施設内で被害を最小限にしなければならないという気持ちが軽くなったのが感じ取れました。何てことを言ってくれたんだという気持ちと共に、こ奴が担当だった為に店長もルールを順守する気持ちが薄いままなのだな。そういう雰囲気を、こ奴がこの店舗に限らずいろんな店長との間で築いているのだなと思いました。

当然そのような発言を見逃すわけにはいきませんので、「今の発言は間違っています。消防法への遵守はその日だけではなく、日々誰も見ていなくとも必要です。」とピシャリと訂正しました。そのときの発言の迫力が伝わったのか、すぐさま是正してくれて、消防査察当日も当日以降もその店で防火シャッターの降下障害は見られませんでした。

こうして、調整が難航したところもありましたが、ひとまずビルメンと運営スタッフの巡回点検で消防査察の前に出来ることは全てやりました。後は野となれ山となれに近い気持ちで消防査察当日を迎えることになりました。

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