現役ビル管理士がビル管理士制度についてまとめました

建築物環境衛生管理技術者(ビル管理士、ビル管)

ビル管理士になって3年以上経ちました。実際にビル管理士になり、施設のビル管理士に選任されてみてわかるようになったこと、見えてくるようになったことが多くなったので、ここらで書き記してみます。ビル管理士試験の説明や攻略方法なども書いていますので、ぜひご覧下さい。

ビル管理士(建築物環境衛生管理技術者)とは

一定の規模以上、一定の用途の建築物の環境衛生の維持管理の業務を行うことができる国家資格の保持者を言います。一定規模以上、一定用途の建築物ではビル管理士を選任して定めねばならない為、ビル管理を業としている会社では大型物件の業務受託の為に資格取得者を社内で多数保有すべく、資格取得者の採用の際には優遇する傾向にあります。

ビル管理士の根拠法律

ビル管理士は「建築物における衛生的環境の確保に関する法律(通称:ビル管法又は建築物衛生法)」において、制度が定められています。

ビル管理士が必要な施設

ビル管理士は特定建築物において選任義務があります。特定建築物については下記を参照ください。

特定建築物とは

特定用途に利用される部分の面積が、3,000m2以上(学校教育法第1条に規定する学校の場合は8,000m2以上)の建築物を特定建築物といいます。特定用途については下記を参照下さい。

特定用途の範囲

興業場(映画・演劇・音楽・スポーツ・演芸を見せる施設)、百貨店、集会場(公民館・市民ホール・各種の会館・結婚式場等)、博物館・美術館、遊技場(麻雀・パチンコ・卓球・ボウリング・ダンス・その他の遊技をさせる施設)、店舗(卸売・小売店等の物品販売業の他・飲食店・理容所・美容所・その他サービス業に係る店舗)、事務所、学校(小学校・中学校・高等学校・大学・高等専門学校・盲学校・聾学校・養護学校・幼稚園・専門学校・各種学校)、旅館・ホテル
※除外・・・工場、病院、老人ホーム、駐車場、共同住宅、研究所

ビル管理士の業務

建築物の巡回、検針

ビル管理業務の従事者はビルメンと通称されることがあります。ビルメンの日常業務として管理している建築物内の巡回及び検針業務がありますが、その際にビル管理士資格保持者は、ネズミや昆虫等が発生していないか、コンクリートが白化していないか、居室の温度・湿度・粉塵は問題ないか等のビル管理士試験に合格した人間の目線で目視確認を行います。

修繕計画の作成

管理する建築物の修繕計画の作成は、ビル管理士固有の職務というより、ビルメンの固有職務と言えます。ビル管理士もまたビルメンですからビルメンが行うべき業務を行っています。

修繕工事の施工管理

こちらもビルメンの業務です。元々修繕予算に組んでいた大型工事の施工や、突発的に壊れた建築設備に対し緊急対応的行う修繕工事の施工の際に立ち会いを行い、予定通り工事が施工されるか管理を行います。

施設内不具合の1次対応

雨天時の天井からの漏水、空調からの結露水の漏水、給水配管の折損、漏電等と建築物内には設備不具合が日常的に多数発生します。それらの不具合への応急処置(これを1次対応といいます)はビルメンの職務です。あくまで1次対応である為、その後専門業者へ修繕工事を発注し本格的な修繕を行います。

建築物維持管理報告書の提出

この業務はビル管理士固有の職務です。地方自治体に対し、一年間の特定建築物の維持管理状況を報告する書類を作成します。報告書の中身は空気環境測定の測定結果や、給水槽や排水槽等の清掃状況、水質検査の実施結果等であり、法律で定められた建築物の環境衛生に関する維持管理の項目について、適切に実施したかを報告するものです。

行政の年度末は3月末である為、一般的には4月に入って昨年度分の報告書を作成します。

ビル管理士管理士試験制度

必要性 ★★★★★★★★★★
難易度 ★★★★★★★☆☆☆
ボリューム ★★★★★★★☆☆☆
資格手当期待 ★★★★★★★☆☆☆
受験資格 2年以上の実務経験
試験時期 10月上旬
受験料 13,900円(H27年実績)
試験地 札幌市、仙台市、東京都、名古屋市、大阪府、福岡市
形式 5択(マークシート)×180問 7科目
合格基準 7科目の合計で65%以上かつ各科目40%以上の得点
合格率 15%前後(年度によってやや変動率高い。詳細は下記表にて)
数学的要素 ★★☆☆☆☆☆☆☆☆(あまり数学的素養はいらない)
過去問研究効果 ★★★★★★★★☆☆(過去問研究が効果的)
資格手当期待 概ね一万円程度(ビル管理会社による)

試験日程、試験科目及び問題数

<午前(試験時間3時間)>
1. 建築物衛生行政概論(20問)
2. 建築物の環境衛生(25問)
3. 空気環境の衛生(45問)
<午後(試験時間3時間)>
4. 建築物の構造概論(15問)
5. 給水及び排水の管理(35問)
6. 清掃(25問)
7. ねずみ、昆虫等の防除(15問)

合格率

 年度 受験者数 合格者数 合格率
1994(H6) 6,488 1,140 17.6%
1995(H7) 6,332 859 13.6%
1986(H8) 6,498 796 12.2%
1997(H9) 6,720 1,215 18.1%
1998(H10) 7,053  995 14.1%
1999(H11) 7,623 1,674 22.0%
2000(H12) 7,559 1,680 22.2%
2001(H13) 8,365 1,744 20.8%
2002(H14) 9,031 1,445 16.0%
2003(H15) 9,709 1,895 19.5%
2004(H16) 9,652 947 9.8%
2005(H17) 9,959 3,512 35.3%
2006(H18) 8,632 811 9.4%
2007(H19) 9,489 1,746 18.4%
2008(H20) 9,312 1,666 17.9%
2009(H21) 9,918 1,827 18.4%
2010(H22) 10,194 1,700 16.7%
2011(H23) 10,241 1,367 13.3%
2012(H24) 10,599 3,467 32.7%
2013(H25) 9,441 1,000 10.6%
2014(H26) 10,095 2,335 23.1%
2015(H27) 9,827 1,661 18.9%
2016(H28) 10,394 2,956 28.4%

ビル管理士の難易度

偏差値上での評価

設備・工業系資格の偏差値一覧を見たことがありますが、その中では“53:建築物環境衛生管理技術者(ビル管)”となっていました。“58:電験三種”、“59:エネルギー管理士”となっていたことを考慮すると、それらよりかはやや易しめの資格として認識されているようです。

実際それらをすべて持っている私の受験経験を振り返ると難易度的には間違っていません。しかし、ビル管理士と電験三種、エネルギー管理士の難しさは内容が少し異なるので、一概には比較しにくいものです。

勉強内容の難しさ

では、どう難しいのでしょうか。私の職場でビル管理士と電験三種、あるいはビル管理士とエネルギー管理士を両方取得している同僚数人に話を聞いたところ概ね皆の意見は一致していました。

難易度の違い
『ビル管理士』・・・とにかく範囲が広くて勉強ボリュームが多い。1年で180問出題されるので、過去問を1年分きっちり勉強するだけで半日以上かかることもある。合格ラインが60%ではなくて65%というのも地味にハードルが高い。その5%というのは問題数で言うと9問だがあと9問間違ってもいい試験だ有ったらどんなに楽だろうかと思ったことがある。
・『電験、エネ管』・・・高校数学から離れて結構な時間が経っていたので、まずテキスト読み進めていくうえで何度も数式の意味がわからずにつまづいた。数式のは暗記だけではなくその式がどういう要素から何を計算しようとしているかを理解していないと、勉強を進めていくうえでつまづくことが多い。

いずれの資格も難しいです。ビルメン上位3点セットだとかビルメン三種の神器だとか言われるだけはあります。
各資格の攻略方法はこちら
この勉強法で合格!エネルギー管理士(エネ管)[電気]合格体験記
この勉強法で合格!エネルギー管理士(エネ管)[熱]合格体験記
この勉強法で合格!電験三種合格体験記
この勉強法で合格!建築物環境衛生管理技術者(ビル管理士)合格体験記

勉強のコツ

勉強のコツは、知識を集約させる参考書なりノート(ルーズリーフ)なりを一つ決めて、それに過去問で勉強したことやネットで調べたことなどを書いていくことです。いわゆる情報の一元化です。これをすることで、復習が効率的になりますし、新たな知識が既存の知識のどの辺に加わるのかが視覚的に明確になって頭が整理されやすくなります

自分の場合は、ルーズリーフに図表を貼り付けたり、マインドマップを参考にして簡単なまとめノートを作ったりして攻略しました。
記憶術①~マインドマップ~
この勉強法で合格!建築物環境衛生管理技術者(ビル管理士)合格体験記

まとめノートを作るのは無駄だという意見を聞いたことがありますが、自分としてはまとめノートを作ることで記憶が定着しやすく、かつ理解したつもりが無くなって、結果としてかなり早く合格レベルまで達したと感じていますので、まとめノート作りをお勧めします。

勉強順序

まずは過去問から

とにかく過去問1年分を解いてください。そして、どんな内容を問われるのかどれくらいの深さで問われるのかを体感してください。本試験はトータル6時間ですが、ほとんど解けないのでほとんどの問題を当てずっぽうで解くことになり、おそらく1時間かかりません。

過去問は見開きが大きい(B4)この過去問題集がいいでしょう。掲載年数は10年としっかり掲載されています。

次に、テキスト読み

が一番お勧めのテキストですので、これを1ヶ月以内に3周読みます。3周読んで重要事項が頭にこびりついてきたと感じたら、再度過去問を解きます。

もう一度過去問を解く

半分ぐらい解答がわかる問題があると思います。このときに解説をよく読んで、まだ頭に入っていない知識を補完していくわけですが、その際に一番の良書は通称“赤本”と呼ばれるこの本です。

とにかく解説が充実しています。掲載年数は6年です。一冊過去問題集を買っているのにさらに赤本が要るのかと言われそうですが、赤本は6年しか掲載されておらず、また文字のサイズも小さめなため、解き進めるうえでは赤本ではない過去問題集が良いと思います。

では赤本の位置付けはというと、辞書的な位置づけです。他の解説でわからなかったところも赤本の解説だとわかることがあります。

そうして、テキスト読みと過去問解きをサンドイッチ形式で繰り返していると効率的に合格レベルにたどり着けるでしょう

ビル管理士の資格手当の相場

月額の資格手当として支給される会社の場合

月額手当としては5,000円~12,000円程度の相場です。10,000円を超えるところはそうないとは思いますが。
支給形態としては
・ビル管理士の資格を取得すれば、5,000円。ビル管理士として選任されればプラス5,000円。
又は
・資格を取得していれば10,000円、選任されているか否かは問わない。
という支給形態が考えられます。

資格を取得したときに報奨金として支給される会社の場合

資格を取得したときの一時金として100,000円~150,000円程度の相場ではないかと思います。

ビル管理士を取得して良かったこと

月給が増えた

資格手当で月給が増えました。家族で外食できる日が1日増えました。感謝!

昇格した

物件の責任者になって給与レベルが1ランク上がりました。責任は増えましたが、その分給与も増えて裁量とやりがいも増えました。

転職市場で市場価値が高まった

今後一生今の会社に勤めれるかはわかりません。介護で一端離職するかもしれませんし、職場の人間関係で辞めざるを得なくなるかもしれません。そうなったときにこの資格があれば、「食いっぱぐれはしないぞ。どこかで雇ってもらえるぞ」という気持ちはできました。

専門性を持てるようになった

今まで、先輩社員から教えてもらっていたビルメンの仕事が何を根拠にしていたのか、どんな法律に準拠した業務だったのかわかるようになりました。また、物件オーナー会社の担当者と話していて、詳しく説明できる専門用語が増えたので、自分の専門性が高まっているのを感じました、専門性が高まっている実感はやりがいにつながっています。

自信が付いた

ペーパー試験に対する自分の方法論に自信を持てました。このやり方で勉強すれば中堅ランクの資格であれば1~2回の受験で合格できるのではないかという自信は、他の資格も取り進めていく上での意欲になっています。

ビル管理士の業務で大変なこと

衛生面に関する責任がある

建築物の環境衛生に関する責任があるわけですから、とりわけ衛生面に関して敏感になりました。具体的には、例えば施設利用中のお客様の体調が悪く吐しゃ物を床に残されたような場合、ノロウィルスに注意して素手で触らずに専門キットを利用して清掃することを清掃員に指導したり、加湿器がある施設ではカビの発生が無いか等を同僚からは「ここまで必要か」と思われるほど意識するようになりました。

衛生的に汚いこともしなければならない

ビル管理士もビルメンです。汚いこともしなければなりません。ラーメン屋さんの厨房の床にある油だらけのグリストラップに手を突っ込んで詰まりを取り除いたりすることもあれば、大便器の詰まりを取り除くときに飛沫が服にかかることもあります。

求められる人物像

ビル管理士に求められる人物像は広範囲な専門分野を勉強し続けることができる勤勉性と、環境衛生的に問題がある箇所を見つけることができる注意力、そして決して派手ではなく地味な仕事をときにはオーナー会社や施設利用者に無茶を言われても腹を立てず黙々と継続することができる忍耐力でしょう。

ビル管理士の年収

ビル管理士の年収は、会社や年齢にもよりますが300万円~700万円程度ではないでしょうか。ビル管理士という資格の有無だけの要因で大きく年収が変わることはありません。

ビル管理士の資格保持者で現状300万円未満の年収レベルで、年収に大きな不満がある人はすぐにでも転職することをお勧めします。おそらく今よりも高い年収ですぐに転職が決まります。

ビル管理士の市場価値

転職サイトに登録したところ、ビル管理士であるという点に評価を受けてオファーのメールをもらったことがあります。そのときの内容をご紹介します。ちなみに当時3ヶ月間ほど登録し、私登録したスペックは
・大卒
・建築設備関連工事の施工管理、ビル管理の経験3年
・30代後半
でした。

ビルメン会社からのオファー

年収範囲 250万円~500万円:特定建築物の管理責任者をお願いしたい。

施工管理会社からのオファー

年収範囲 400万円~650万円:電気の施工管理や大規模建築物の修繕の立案と実施をお願いしたい。

工場、プラントからのオファー

年収範囲 350万円~600万円:自社の工場の設備保全職員が足りていないので、オファーさせていただいた。

ビル管理士の将来性

ビル管理士に将来性があるかと言われれば、無きにしも非ずです。決してこの業界はこれから伸びていくわけではありません。しかし、急激に落ち込みもしないでしょう。

今後考えられる経済環境への大きな影響は
・止まらない少子高齢化
・さらに拡大するe-commerce
・急激な台頭を見せるAI
だと考えられますが、建築物を目視巡回して問題点を発見し、専門業者が来るまでに1次対応をするというビル管理士の仕事はこれらに大きく影響を受けるものではありません。

以前AIに職を奪われるランキングの中にビルメンテナンスが入っているのを見たことがありますが、ビルメンテナンス業務の実態をまったく知らない人が作った机上のランキングです。ビルメンテナンスの業務はAIが代替できる業務内容ではありません。

そういった意味では、倉庫管理や経理業務の様にさらにシステム化されて少人数で行われるであろう仕事に比べれば、まだ将来性はあると言えるのではないでしょうか。

まとめ

いかがでしたでしょうか、現役ビル管理士として知っていることを詰め込んでみました。ビル管理士のやりがいは、専門知識のさらなる向上と物件オーナーへの的確で高度な提案力の向上です。自分独自の視点で、建築物内の問題点と改善策を提案し、それが採用され、功を奏して評価されたときは大きな達成感を得ることができます。

今後ビル管理士の取得を考えている人は、ぜひ頑張って取得していただきたいと思います。

この勉強法で合格!建築物環境衛生管理技術者(ビル管理士)合格体験記
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